目次
まず「誰に責任が及ぶか」を全体で把握する
いじめの被害が大きくなってくると、
「この場合、誰にどこまで責任を求められるのか」が一番あいまいになりがちです。
法律上は、主に次の4つのルートで責任が検討されます。
- 加害児童本人の不法行為責任(民法709条)
- 加害児童の保護者の監督義務者責任(民法714条)
- 学校や学校法人の使用者責任(民法715条)
- 公立学校の場合の自治体の責任(国家賠償法1条)
大事なのは、「この中の誰か一人だけが責任を負う」わけではないことです。
実務では、加害児童+親+学校(または自治体) が並んで責任を問われることも珍しくありません。
加害児童(709条)が問われるライン
民法709条は「故意または過失で他人の権利・利益を侵害したら、損害を賠償しなさい」という、ごく基本的なルールです。
暴力、脅し、SNSでの誹謗中傷、仲間外し、しつこいからかいなどは、人格権(心身の安全・名誉など)を侵害する行為として、この条文の対象になります。
「いじめ」は、一般に故意があると評価されやすいので、709条のハードルは高くありません。
保護者(714条)が問われるライン
加害児童に「自分の行為の意味を理解してコントロールできる力」が十分でないと判断されると、その代わりに親などの監督義務者が責任を負います(民法714条)。
実務では、おおむね10〜12歳くらいから責任能力が認められやすいと言われますが、年齢だけで自動的に決まるわけではなく、個別事情で判断されます。
また、子どもに責任能力がある場合でも、親が明らかに監督を怠っていたと評価されれば、親自身の709条責任や714条責任が問題になることがあります。
学校(715条・国賠法)が負う可能性がある範囲
私立学校の場合は、教員を雇っている学校法人などが「使用者」として、教員の落ち度について民法715条で責任を負う可能性があります。
公立学校の場合、教員は公務員なので、自治体などが国家賠償法1条に基づいて責任を負う形になります。
ここで問われるのは、「いじめを認識できたのに、必要な対応を怠ったかどうか」 という、学校側の対応プロセスです。
加害児童に発生する法的責任(709条)
ここからは、それぞれの責任のラインをもう少し具体的に見ていきます。
まずは「加害児童本人」が負う709条の責任から整理します。
故意・過失の定義と“いじめでの判断基準”
故意…わざと相手を傷つけるつもりでやった
過失…普通なら避けられたのに注意を怠ってしまった
いじめの場合、継続的なからかい・暴力・SNSでの中傷などは、「傷つけることを分かっていた」と評価されやすく、故意ありとみなされることが多いです。
一度きりのトラブルではなく、
- 注意された後も続けている
- 複数人で囲んでいる
- LINEやSNSで何度も書き込んでいる
といった事情があれば、故意の評価はかなり強くなります。
権利侵害に該当する行為の範囲
典型的には次のような行為が、人格権侵害として709条の対象になります。
- 殴る・蹴るなどの身体的暴力
- お金や物を取る、脅して買わせる
- 「死ね」「きもい」などの暴言や侮辱
- SNS・グループLINEでの悪口、画像拡散
- 無視・仲間外し・見せしめのような扱い
「ふざけていただけ」「遊びのつもりだった」という言い訳は、継続性や周囲の状況を踏まえてほとんど通用しません。
損害の種類(慰謝料・実費・将来損害)
加害児童(とその親)に請求できる損害は、大まかに次のようなものです。
- 精神的苦痛に対する 慰謝料
- 通院費・カウンセリング費用・薬代などの 治療費
- 通院交通費、付添いのための交通費等
- いじめを避けるための転校費用・転居費用
- 重い後遺障害や自死に至った場合の 将来の逸失利益 など
さらに、裁判で勝訴した場合には、認められた金額の一部(目安として1割程度)が弁護士費用として加算されることもあります。
責任能力が認められやすい年齢ライン
責任能力には明確な年齢基準はありませんが、判例・実務上はおおむね10〜12歳頃から認められることが多いとされています。
それ以前の子どもについては、本人ではなく保護者の監督義務(714条)を軸に、賠償責任が検討されるのが一般的です。
保護者に発生する責任(714条:監督義務違反)
次に、「親としてどこまで責任を負うのか」という話です。
ここを冷静に押さえておくと、交渉で現実的に狙えるラインが見えてきます。
親の責任が成立する典型ケース
民法714条は、責任能力のない未成年者について、その監督義務者(多くは親)が賠償責任を負うと定めています。
典型例としては、
- 以前から暴力や問題行動の指摘があったのに、ほとんど対応していない
- 学校から再三注意されても、「うちの子に限って」と取り合わない
- 夜遅くまで出歩く、スマホを放任するなど、明らかに管理が甘い
といったケースです。
スマホ・SNSの管理義務が重視される理由
いじめの多くが、LINE・SNS・オンラインゲームなどを通じて行われています。
そのため、
- 深夜までスマホを使用させている
- アカウントや履歴を一切確認しない
- 学校から指摘があっても何もしない
といった「放任状態」は、監督義務違反として重く評価されやすい傾向があります。
逆に、フィルタリング・時間制限・家庭内でのルール作りなど、一定の管理努力をしているかどうかも見られます。
そして、LINEやSNSは証拠の集め方が難しそうに見えて、実際にはもっとも痕跡が残りやすい証拠です。
やり取りの画面は、必ずスクリーンショットなどで確保しておきましょう。
SNSを含めた有効な証拠記録の作り方とテンプレートはこちら
裁判所が“親の姿勢”をどう評価するか
裁判例を見ると、「全く知らなかったかどうか」よりも、
- 問題を知ったあとにどう動いたか
- 学校や周囲からの情報をどの程度真剣に受け止めたか
という姿勢がかなり重視されています。
いじめが発覚した後に、親が被害側に謝罪し、学校と連携して再発防止策を取っている場合、監督義務違反が否定されたり、責任が軽く評価される例もあります。
判例からみる監督義務違反の判断軸
過去の裁判例では、
- 非行歴などを把握していたのに放置していた
- 危険な行動を予見できたのに、事前に止める措置を取らなかった
といった事情を理由に、親の監督義務違反が認められたものがあります。
まとめると、
「子どもに任せっぱなしだったか」
「問題が見えたときに、どれだけブレーキをかけようとしたか」
この二つが、親の責任の重さを分けるポイントになります。
学校・教委が問われる責任(715条・国賠法1条)
「学校はどこまで責任を負うのか」は、多くの保護者が一番イメージしづらい部分です。
ここでは、学校・教育委員会に対する責任追及の基本ラインを整理します。
安全配慮義務違反が成立する要件
学校には、在籍する児童生徒の安全を確保する「安全配慮義務」があります。
裁判で問題になるのは、次のような点です。
- いじめを認識できた、または認識できる状態だったか(予見可能性)
- それにもかかわらず、必要な対策を怠ったか(義務違反)
- その結果として、現在の損害が生じたか(因果関係)
この3つが揃うと、学校や自治体に損害賠償責任が認められる余地が出てきます。
調査義務・報告義務の欠落が問題になるポイント
具体的には、次のような「プロセスの穴」が責任の焦点になります。
- いじめの訴えがあったのに、事実確認をほとんどしていない
- 一部の児童からしか話を聞かず、記録も残していない
- 管理職や教育委員会への報告を怠っている
- 医師からの診断書・保護者からの申立てを軽視している
こうした「やるべき調査・報告をやっていない」ことが、安全配慮義務違反として重く見られます。
担任・管理職の対応が責任を左右する例
判決文を見ると、担任だけでなく、教頭・校長の対応もかなり細かくチェックされています。
- 担任がきちんと報告していたのに、管理職が握りつぶした
- 管理職が対策会議を開かず、場当たり的な対応に終始した
といった場合、学校側の責任が強く認定されやすい傾向があります。
一方で、「いじめの存在を事前に予見できなかった」「十分な調査と対応を行っていた」と認められたケースでは、学校側の責任が否定された判例もあります。
請求できる損害と金額相場(実務ベース)
次に、「いくら請求できるのか」というお金の話です。
ここはあくまで目安として押さえておくイメージで見てください。
慰謝料の判断基準と相場(軽度〜重大事態)
いじめの慰謝料は、
- いじめの期間・回数・態様
- 不登校・心身症など症状の程度
- 学校・加害側の対応の悪質さ
などを総合して決まります。
一般的には、
- 比較的軽度のケース:0〜20万円程度
- 継続的ないじめ・不登校が絡むケース:数十万〜数百万円規模
- 自死・重い後遺障害を伴うケース:数千万円規模になることもあり得る
といったレンジで考えられています。
もちろん、これはあくまで過去事例から見た「幅」であって、個別事情で大きく上下することは理解しておいてください。
実費損害として認められやすい項目
慰謝料とは別に、実際に支出したお金(実費)も損害として請求できます。
たとえば、
- 医療費(心療内科・精神科を含む)
- カウンセリング費用
- 通院の交通費・付添いの交通費
- 転校のための経費(入学金・備品など)
- いじめを避けるための転居費用
などです。
領収書・明細があるものほど、裁判所で認められやすくなります。
保護者の休業損害・将来損害が成立する条件
保護者が付き添いのために勤務日数を減らしたり、退職したりした場合には、休業損害が認められる可能性があります。
また、被害児童に重い後遺障害が残ったり、将来の就労に大きな制限が出るような場合には、
- 将来の逸失利益
- 将来の介護費・治療費
といった「将来損害」が争点になります。
減額されるケース(過失相殺・証拠不足)
損害が減額される代表的なパターンは、
- 被害児童側にも相応の問題行動があったと判断される
- 親の対応にも一定の落ち度があると認定される
- 証拠が乏しく、損害の程度を十分立証できない
といった場合です。
この「過失相殺」や「証拠不足による減額」をどこまで避けられるかが、実務ではかなり重要になります。
責任追及のために必要な証拠と準備(行動パート)
最後に、「実際に動くなら何をそろえればいいか」を整理します。
ここからは、具体的な行動に落とし込むパートです。
最低限そろえるべき三大証拠
細かい証拠を完璧に集める必要はありません。
まずは、次の3点を意識してそろえるのが現実的です。
【三大証拠】
- いじめの事実の記録
→ 日付・場所・関わった児童・具体的な言動(時系列メモ/スクショ)
有効な証拠を残すための記録方法とテンプレートはこちら
- 子どもの状態を示す記録
→ 診断書・カルテ・カウンセリング記録・不登校の期間など
いじめに関する診断書の取り方はこちら
- 学校の対応の記録
→ 相談した日時・内容・学校側の返答(メール・連絡帳・議事録など)
学校との面談議事録の作り方とテンプレートはこちら
この3つがあるだけで、「誰にどこまで責任を求められるか」を、弁護士がかなり具体的に評価しやすくなります。
学校の対応を“記録化”するポイント
学校とのやりとりは、“その場の会話”で終わらせないことが重要です。
- 面談後に、内容を保護者側からメールで送っておく
- 「本日の打合せ内容」として、日時・出席者・合意事項を書き残す
- 学校からの文書・いじめ調査報告書はコピーを保管する
こうしておくと、後から「そんな話はしていない」「そうは聞いていない」と言われにくくなります。
弁護士案件と司法書士案件の境界線
損害賠償の金額や相手方の数によって、誰に依頼すべきかも変わってきます。
-
140万円以下の比較的少額の請求
→ 認定司法書士が簡易裁判所で代理できる範囲 -
140万円を超える可能性がある請求、
あるいは学校・自治体も巻き込む複雑な事案
→ 原則として弁護士に依頼する領域
金額が大きくなるほど、最初から弁護士に相談したほうが手戻りが少なく済みます。
示談/民事訴訟の選択基準
実務的には、いきなり訴訟に行くかどうかは慎重に判断されます。
【示談・調停を優先しやすいケース】
・損害額が比較的限定的
・加害側・学校側がある程度事実を認めている
・今後の学校生活を続ける必要がある【訴訟を検討すべきケース】
・重大ないじめ(重い心身症・自死未遂など)がある
・学校・加害側が事実をほとんど認めない
・示談の提示額が明らかに不当
どちらを選ぶにせよ、
「誰に、どの法律を根拠に、どんな損害を求めるのか」
という見取り図を持っておくと、保護者側の精神的な負担は大きく減ります。
このページの内容は、あくまで日本法に基づく一般的な枠組みの説明です。
実際のケースでは、いじめの内容・証拠の揃い方・学校の対応によって、結論は大きく変わります。
「自分のケースだとどこまで行けるのか」を整理するためにも、
ここで書いた三大証拠をもとに、一度弁護士に相談してみることをおすすめします。
実際にその証拠を使って、どの順番でいじめ解決まで持っていくかは、こちらのイジメ対応ロードマップで全体の流れを確認してみてください。
